この歳になって長電話が増えた。相手は母親である。
会おうと思えばすぐ会えるような距離に居るのだが、コロナのこともあって直接会う回数は減っている。
そんなこんなで、ここ数年で必然的に電話が増えた。だいたい天気の話から始まり、他愛もないことをダラダラと話す。
…親子の会話の始まりで天気の話ってどうなんだ。
母親は不思議な人だと思う。私から見るとトンチンカンなことを言ったりやったりする。価値観も私と違いすぎて、本当に親子なのか疑わしいくらいだ。
彼女のヘンテコで、明確に覚えていることはいくつかある。
高校に入学したての頃、スカートを短くしたくてウエストの部分を何回か折って履いていた。
校則的にはダメなんだろうが、うちの学校は雰囲気がゆるかったので、さほど問題はなかった。だた、いちいち折るのは面倒だしプリーツが不格好になるのは気になっていた。
ある日、スカート丈が折らずとも短くなっていた。え、何これ?とポカーンとしていると、母親が「折り目がみっともないから切っておいたわ〜」と笑顔で宣った。そういえば彼女はミシンの扱いが得意だった。
切っちゃうんですね、勝手に。先生に長さを戻せと注意されたらどうするんです。「母親に切られました」と言っても信じてもらえないと思うのですが。
と、心の中で捲し立てたが面倒なのでやめた。短い方が可愛いと思って折っていたんだし。
ちなみにスカートは勝手に切ったのに、髪の毛は染めるなピアスはあけるなバイトはするな、という方針だった。スカートの丈だけ許される意味が解らない。
お陰でその日から腰回りがモコモコせずに快適でしたけどね。
それから20歳くらいの時のこと。私はひとりで沖縄旅行をすることにした。それを母親に告げると「パスポートはあるの?」と言われた。
彼女は沖縄出身である。沖縄は日本ですよ、お母さん。1972年に返還されてますよ。もう時代は2000年になっていますよ。お母さんだって返還されてから何回も沖縄に帰っているでしょうが。それともひとり旅になるとなにか特殊ルールが発動するのですか。
たぶん、私のことが心配だったためにそんな謎発言になったのだと解釈した。
まぁ、不思議な人というか、いわゆる天然さんなのだ。
でも数年前にうちの人が面と向かって「お義母さんって天然ですよね」と軽く笑いながら言ったら、母親は本気でムッとした表情で「違うわよ」と怒っていた。
でも酔っ払いに酔っ払いですね、と言うと否定するのと同じだ。本当の天然さんは自分では絶対にそう思っていない。
自分は母親に全く似ていないと思って生きてきたはずなのだが、ここ何年かで似てきてしまっている。
笑い方や喋り方、心配症なところや身内に変な気を遣うところ。電話をするようになって、より分かってきた。
正直、生き方の価値観とか物事に対する見識は大きく違ったままなのだが、纏う雰囲気や脊髄反射レベルの発言なんかは近くなっている気がする。
でも、天然はできる限り似たくないな。私はそんなふんわりとせず、しっかり者として生きていきたい。ほら、まがりなりにも監督したりするし。
...と思っているのだけど、これに関しても(天然はさておき)怪しい。周りから、しっかり者からは程遠い扱いを受けることが増えている。つまり、そういうことなのだ。
親と物理的な距離が離れてからの方が、中身が似てきたようだ。
よく夫婦とかは「長い時間一緒に居ると似てくる」と言うが、こちらは反比例しているじゃないか。どうなっているのだ。
なんだかなぁ、と思いながらも私はまた母親に電話をして、日に日にそのエッセンスを受け継いでいくことになるのだろう。
ふと思ったけど、AIってこんな感じで学習していくのかな。眠っていた遺伝子を起こして、学習させてる気分なんだよな。
…もしもこのブログを見たら「私は天然じゃない、変なこと書くな」って怒られそう。
おまけ。
9月くらいは季節の変わり目で、毎年絶不調です。
でも涼しくなってきたから、生花を愛でて元気になろうと思います。
とにかく適度に頑張る。