「推し」って単語はいつからこんなに市民権を得たんだろう。
私には推しと言える作家が何人かいる。ここ数年の推し作家を5人挙げてみると(あいうえお順・敬称略)
ということになる。
先日、村田沙耶香さんのトークを目の前で聞く機会に恵まれた。三軒茶屋の本屋さん、twililightでのイベントだった。
サインまでしてもらって最高の夜だった。なので、現在の我が家の面出しはこんな感じ。
全部サイン入りだもんね!(代わりに読む人、には小山田浩子さんのサインがあります。)
でも、村田沙耶香さんのイベントの詳細はここには書かない。良い思い出は胸の中にしまっておきたい。じゃあなんでイベントに行ったって書き始めたのか?
…ただの自慢です。すみません。
代わりにここに記すのは、そこまでの道程ということにする。
その日、私は本屋さんのイベントに行くのにもかかわらず、家の近所の本屋さんをフラフラしていた。アニー・エルノー『嫉妬/事件』が発売になっていたので即決してレジへ。お待ち申しておりましたよ。
そして、かながわペイという自治体ペイでお支払いを完了。最近多いなぁ、自治体ペイ。この呼び方で合っているか分からないけど。
20%のポイントバックは大きいのだ。何故なら本なんて勝手に増殖するから。…勝手に?
そのあと、電車に乗って三軒茶屋へ。
電車で音楽を聴きながら読書を始めたのだが、この時点で私のカバンには2冊の本が入っていた。別にポケットを叩いたから2冊になった訳ではなく、家から村田沙耶香『信仰』を持ってきていたのだ。
この日のイベントでは『信仰』の話をどこまでするのか分からなかったものの、最新作は読み終えておきたいと思った。
前日までに読み終えておきなさいよ、と自分で思うが「短編集だし薄めの本だから大丈夫そう」という謎の確信のもと、当日まで放置してしまった。
三軒茶屋に着いて、すぐに喫茶店に向かう。小腹が減っていたし本を読み終えなければならない。
駅近くの喫茶店に入ると腰の低い、ちょっと押し出しが弱そうな店員さんに案内されて席に着いた。シナモントーストとブレンドを注文すると、その店員さんがオーダーを通す。
声が、デカい。思ったよりデカい。きっとそういう指導を受けているんだろうな真面目だな、などと思いながら、いそいそと読書をし始める。
注文したものも早めに来たので右手に本、左手にシナトーというスタイルだ。行儀は悪いのかもしれないが時間との勝負なので仕方ない。
と、そこに友人からLINEが来た。今日のイベントに一緒に参加する友人である。ちなみにこの友人は前回の記事に登場した「おにぎり屋さんの前で突っ立って読書をしていた」人である。
彼女も小腹を満たしたいらしく、店に来るという。私はひとり席に座っていたため、先程の店員さんに言って2人席に移動させてもらった。
すみません、と言う私に嫌な顔ひとつせず飲み物などを運んでくれる彼。伝票を直させてごめんよ。
再び、もぐもぐとシナトーを食べながら読書をしていると、また友人からLINEが来た。
「Pも合流したいって」とのことだった。Pとはプロデューサーでも動く点Pでもなく、私も一度お会いしたことがある友人の友人だ。もちろんウェルカムである。
だが、しかし。私は2人席に座っていることに気がついた。再移動が必要である。
また同じ店員さんに声をかけ「もうひとり来るみたいで…移動してもいいですか…?」となるたけこっちも腰を低くして伝えた。
店員さんは嫌な顔はしなかったが、ちょっと戸惑い気味だった。
そして移動しようとしたところ、奥にいたさっきの店員さんの上司っぽい人が出てきた。「片付けるのでお待ち下さーい」と押し出し強めだ。へこへこしながら待っていると「全部で何人ですかー?」と確認された。
ふと考えてしまった。え、増え、ない、よね?もし増えても4人席だから、あとひとりいけるよね?と心の中で確認。なんなんだ、もうひとりってイマジナリーフレンドでも座るのか。
「全部で3人です!」とこちらもハッキリと伝える。
そして無事に4人席へ移動した。ようやく落ち着ける。
しばらくするとPさんがやってきた。私よりだいぶお若いし透き通るような声をしていらっしゃるし、眩しい。いろんな意味で眩しいので、そわそわしてしまう。
Pさんも小腹を満たそうとサバサンドを注文していた。小腹というにはボリュームがありそうなやつ。
更に友人も到着して、ようやく3人になった。ちなみにこの友人も私より若く、一般的にいうとビジュアルとしては眩しい方だと思うのだが、中身を知っているのでそわそわしない。
友人も確かチーズトースト(やはりボリューミー)を注文、Pさんはサバサンドを食べ、私は読書に没頭した。したのだが、後ろの席に座っている人の会話が気になってしまい、ちょいちょい集中できない。
でも喫茶店ってそういうところで、集中力が切れることすら醍醐味なのだ。私は喫茶店で読書や書き物をするが、ほどよいザワザワがないと何も手につかないタイプだ。
図書館の静けさなんて論外である。本がたくさんあるという点においては大好きな空間だが、自分が音を立ててしまうんじゃないか気になるし、他の人の咳払いすらもむしろ大きく聞こえてしまう。
学生の頃から勉強するのも音楽をかけながらだったし、今でも人の会話をBGMに作業するのがたまらなく好きなのだ。むしろ休憩しながら、隣の人の会話にガッツリ耳をそば立てていることもある。
...ちょっとそれは下品かもしれないのだが、個人で楽しむ範囲なので許していただきたい。
話がそれたが、無事に『信仰』を読み切ることができた私は、口調がおかしくなった。
村田沙耶香さんの本を読むと、頭の中をかき乱されすぎてドーパミンが放出される。心臓がバクバクしたり変な笑いが出たり神経がピリピリする感じがしたり、ダイレクトに生理的な部分が暴れ始める。
友人に「テンションおかしいけど大丈夫?」と言われてしまった。大丈夫ではないが、私は普段からおかしなことを言っているようなので(家族談)さして問題はない。
結局のところ村田沙耶香を摂取してもしなくても挙動不審ではあるな、と身も蓋もない結論に達して、口には出さずに自己完結した。
ふとPさんのサバサンドを見ると、ひと切れ残っていた。やはりボリューミーだったのか、と思っていたが「私、サバあんまり好きじゃなかったかも」とのこと。
自分で注文したのにまさかのメインの具がそもそも好きじゃないのね...と笑ってしまった。それと同時に、Pさんの眩しさにそわそわしていた私だったが親近感が湧いた。
なぜなら私もそういうことを言って、総ツッコミされることが多々あるのだ。
でもそうなってしまう時ってあるよね?「なんか肉よりは魚の気分で、特に好きな魚じゃないけどこの中だったらこれで」みたいな消極的な選択。
ただ素直に端的に言いすぎて「サバは好きじゃなかった」と言ってしまうだけ。
という、勝手に親近感なので勝手な解釈です。
そうこうしているうちに、イベントの時間が迫ってきたので店を出ることに。3人でゾロゾロとレジに並んだら、更に後ろに見知らぬおじさんたちもゾロゾロしていた。
こういう時に「いや、同じグループじゃないですけどね」っていう顔になってしまう現象をなんと呼ぼう。
そして、私たちは無事にtwililightに到着した。(端的だね)
結局、道程を書いたというより喫茶店の話に終始してしまった。とても楽しい日だったので、この日のことはしばらく忘れなさそうだ。
私はネガティブなことを記憶しがちな性格だが、最近面白かったことや楽しかったことも鮮烈に思い出せるようになっている。いいことだなぁ、としみじみ思う。
願わくばまた三軒茶屋の喫茶店で小腹を満たした後に、推しに会える機会があるといいな。
ちなみにイベント後には鞄の中に本が4冊となっていた。ポケットを叩いた、ということにしておこう。
おまけ。
シナトーって略すの、どうなの?