それなり日記

映像作家、三宅美奈子の日記のようなものです。

私は小躍りする猿。

 

この前、おまけに書いたアンリ・ミショー『みじめな奇蹟』が面白い。

 

まだ全部は読んでいないのだが(もったいないので少しづつ読んでいる)やはり詩人の文章という感じだ。この本はメスカリンやハシシなどの薬物体験記であるが、とにかくイメージを想起する言葉選びが面白い。

 

千のナイフ』という坂本龍一の曲名は、この本の文章からとったと言われている。

突然、一本のナイフが、突然千のナイフが、稲妻を嵌め込み光線を閃かせた千の大鎌、いくつかの森を一気に全部刈りとれるほどに巨大な大鎌が、恐ろしい勢いで、驚くべきスピードで、空間を上から下まで切断しに飛びこんでくる。

 

私は坂本龍一の曲名にさほど興味はないのだ。『千のナイフ』を聴いても、このイメージは湧いてこなかったし。本当にこの文章から取ったのだろうか。それとも単に私の感性が鈍いだけなのか...。

むしろGLAYの『千ノナイフガ胸ヲ刺ス』の由来の方が気になっている。『灰とダイヤモンド』に収録されている曲だ。ナイフが千本もあると痛そうだっていうだけかな、とも思うのだが。でも『灰とダイヤモンド』は完全にポーランド映画のタイトルからとってるし、どうなんだろうか。誰か教えて。

 

 

下記の文章も良かった。

それから《白色》が出現する。完全な白色だ。

−中略−

興奮し、激昂し、白さで絶叫している白だ。熱狂的で、猛り狂い、網膜を突き刺して、無数の穴をあける白色。残忍で、執念深く、人殺しの、電流のように素早い白色。白色の疾風のような白色。《白色》の神。否、神なんかじゃない。わめきたてる猿だ。

 

ここまで白色白色と言われると、一瞬アンミカの声で再生されそうになった。そう考えると多様な白=アンミカなわけで、その印象を植え付けたのはすごいと思いう。

思うが、この文章ですごいのはアンミカではない。「わめきたてる猿」のような白色というのは的確な比喩だ。私は時々、真っ白が眩しく見えてしまって気持ち悪くなることがある。主に寝不足であったり、何かしらの不調を抱えている時だ。そういう時は明るい白色がチカチカして、目に刺さる。

別にメスカリンを摂取していなくても「白色が暴力的になり得る」のは安易に想像ができる。そしてそれを執拗に書いていくことで、反復することで、トリップ感を強調する。お手本のような文章だと思う。

 

 

私はしつこくて、人の湿度を感じて、狂気を内在し、かつ真っ向勝負の文章が好きだ。カラッとして読みやすいものもたまには必要だが、そういうものはすぐに忘れてしまうし、私の中に蓄積されない。

好きな小説の言葉は液体の中の澱みたいだ。ふと動いた瞬間にゆらっと漂うような、そんな風に私の中に存在している。いつも意識している訳ではないが、何かの拍子に現れては消える。澱はない方が見た目が綺麗かもしれないが、それがなかったらなんだか嘘くさい。澱を沈殿させている方が、私らしい気がする。

 

そうやって言葉が沈殿していくような面白い本を読むと、血湧き肉躍る状態になる。なんなら比喩ではなく小躍りしていることがある。家でひとりの場合に限るが。

昨日買って、少しだけ読んだ本も面白くて小躍りした。

 

基本的にエッセイ、日記は大好物だ。それが好きな作家のものなら尚更である。

高橋弘希の著書はまだ2冊しか読んでいないが、淡々と静かな描写が多いのに、ねっとりとしたものを感じて好きだ。内容も過激なようでいて、ただのインパクトに収めるのではなく地に足がついた真摯な描き方だという気がする。

 

このエッセイは、小説よりも軽妙で終始笑ってしまう。青森のこと、食べ物のことなど、変わったことをテーマに書いているわけではないのだが、そもそも語り口が『徒然草』なので、そこからテンションがおかしい。表紙に「くるって候!」と書かれているのが良くて買ったのだが、だいぶポップな狂い方である。(狂っているにはちがいない)

これはもっともっと、このテンションでエッセイを書いて欲しい。出たら絶対買う。とりあえず、まだ読んでいない小説を買おう。

 

 

あぁ、私もポップに狂った話でも書きたい。どうしてもポップなものは難しい。自分にないものを捻り出すのは大変なのだが、やってみたいのだ。

そんなことを思いながら、澱を浮遊させるべく小躍りすることにしよう。何かいい話を思いつくかもしれない。過去の言葉達が浮遊して、何かインスピレーションを与えてくれることを期待しつつ。

 

 

 

 

 

 

おまけ。

今日は短い文章にできた。最近の記事は前後編が続いたり、とにかく長かったね。

いつぞやの新宿某所の牛タン。高いけど好きなんだよね。

舌を食べたり内臓を食べたり、よく考えたらすごいな。感謝しながら余すことなくいただきますけども。